2024年の国内サーチファンド業界では複数のトラディショナル型サーチファンドの組成や各ファンドの事業承継の進捗など、2023年と比較してもサーチャー、ファンドの数共に大きく拡大しました。この記事では2024年に公表されたサーチファンドによる事業承継案件、2024年に組成されたサーチファンド/アクセラレータファンドについて解説していきます。

目次
  1. 2024年に公表されたサーチファンドによる事業承継7件
    1. 4月10日 National Search Fundが2件目の承継 – 「ハーレーダビッドソン」専門のカスタムパーツおよび備品の販売やチューニングサービス
    2. 5月2日 JSFPが3件目の承継 – 総合ビル管理会社
    3. 5月24日 サーチファンド・ジャパンが7件目の承継 – ヘアサロン運営
    4. 7月22日 トラディショナル型サーチファンドM-Capitalが事業承継 – 発泡スチロール製品製造
    5. 7月26日 JSFPが4件目の承継 – 玩具・ゲーム機器の輸出入及び卸売業
    6. 11月27日 アクセラレータ型ファンドのM&A BASEの1号案件で、オムライス専門店運営のTGKを承継
  2. 2024年に組成されたサーチファンド/アクセラレータファンド6件
    1. 1月10日 安宅 祐樹氏が国内4件目のトラディショナル型サーチファンド、事業承継支援機構を設立
    2. 1月31日 株式会社ロケットスターがサーチファンド事業を始動
    3. 3月13日 百五銀行とFore Bridge(旧Growthix)が「105東海みらいサーチファンド」を設立、東海エリアでは初の試み
      1. 「105東海みらいサーチファンド」 概要
    4. 9月16日 日本5例目のトラディショナル型サーチファンド、ジャパン・リレー・パートナーズが始動
    5. 9月17日 日本6例目のトラディショナル型サーチファンド、田中事業承継合同会社が始動
    6. 10月22日 日本M&Aセンターが地域特化型アクセラレータ型ファンド運営会社、「J-Search」を設立

2024年に公表されたサーチファンドによる事業承継7件

4月10日 National Search Fundが2件目の承継 – 「ハーレーダビッドソン」専門のカスタムパーツおよび備品の販売やチューニングサービス

National Search Fund株式会社(以下「NSF」)は、コンコルディア・フィナンシャルグループの横浜銀行(代表取締役頭取 片岡達也)と共同で設立した「サーチファンド未来創造」において、2件目の案件が無事成立したことを発表しました。

「サーチファンド未来創造」とNSF専属サーチャーである矢嶋正明氏は、神奈川県横浜市にあるハーレーダビッドソン専門のカスタムパーツおよびアクセサリーの販売、並びにチューニングサービスを提供する株式会社パインバレーへの投資を完了しました。これに伴い、矢嶋氏が新たに代表取締役社長兼CEOに就任しました。

矢嶋氏は1998年にビームス柏でアルバイトを始め、その後株式会社ビームスに入社。店舗販売からカスタマー部門を経て、2005年にEC事業部を設立し、責任者として事業を大きく拡大しました。2016年には自社ECと公式サイトを統合し、オムニチャネルプラットフォームを構築。2020年には執行役員に就任し、DX推進室の室長として同社のEC事業やデジタルトランスフォーメーション(DX)施策をリードしてきました。また、「一般社団法人日本オムニチャネル協会」や「一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会」のフェローとしても活動し、日本のマーケティング分野に大きく貢献しています。さらに、彼は熱心なハーレー愛好者であり、ツーリングを趣味としています。

5月2日 JSFPが3件目の承継 – 総合ビル管理会社

野村リサーチ・アンド・アドバイザリー株式会社(代表取締役社長:茂木豊)および株式会社Japan Search Fund Accelerator(代表取締役社長:嶋津紀子)は、共同で運営するジャパン・サーチファンド・プラットフォーム投資事業有限責任組合(以下JSFP)を通じ、株式会社ジェクティ(三重県四日市市、非上場、代表取締役社長:多湖勝聡、以下「ジェクティ」)の株式を取得しました。本契約は、サーチャーとして活動する山田重樹氏による事業承継投資の一環です。

ジェクティは、総合ビル管理を主な事業とし、設備管理事業、セキュリティー事業、環境衛生事業およびそれに付随する業務、設備管理技術者に特化した専門派遣社員紹介事業を展開しています。主に首都圏を中心に関東、東海、関西エリアで広く事業を展開しています。

山田重樹氏は、官民ファンド勤務時代から地方での産業育成に強い関心を持ち続けてきました。オーナーとの対話を通じて地元への愛着と貢献心に感銘を受け、また同社の企業理念である「成長発展」が自身の成長志向と一致することから、ジェクティの事業承継を強く望んでいました。

山田氏は、「ジェクティは三重県四日市での安定した成長の歴史を持ち、今後さらなる大都市圏への進出や海外展開も視野に入れています。私のこれまでのマネジメント経験を活かし、第二創業期としてさらなる成長・発展を目指します」と述べています。

山田重樹氏は、黎明期の「ぐるなび」で全社経営管理スキームの構築、モバイル集客を目的としたベンチャー投資、広告以外の新規事業の導入を経験。その後、米国でMBAを取得し、バミューダでの5年間の就労を通じて新規事業開発や日本法人の立ち上げに貢献しました。20年以上にわたるキャリアは投資とマネジメントで構成され、経産省傘下の官民ファンド(通称Cool Japanファンド)では食領域を中心にディレクターとして投資案件をリードしました。投資先では社外取締役としてバリューアップを実施し、京都きもの友禅の常務取締役として事業改革を統括。EC事業や写真事業をローンチした後、西本Wismettacホールディングスに移り、ライフスタイル分野の新規事業責任者としてファインダイニング中食支援などを立ち上げました。

5月24日 サーチファンド・ジャパンが7件目の承継 – ヘアサロン運営

株式会社サーチファンド・ジャパン(本社:東京都千代田区、代表取締役:伊藤公健)は、株式会社日本政策投資銀行およびキャリアインキュベーション株式会社と共同で設立した合弁会社として、神奈川県を中心にヘアサロンを展開する株式会社Kおよび株式会社Hへの事業承継投資を完了しました。この投資は、サーチファンドの仕組みを活用して行われ、経営者候補である三輪勇太郎氏が関与しています。

株式会社サーチファンド・ジャパンは、2023年3月に設立された2号ファンドによる3件目の投資であり、2023年11月に設立されたTokyo Search Fundも共同で投資を行っています。これにより、同ファンドからの累計投資件数は7件に達しました。

Kグループは神奈川県横浜市を拠点に美容室7店舗、ヘアカラーサロン1店舗を運営しており、地域密着型のビジネスモデルで成長してきました。この度の投資により、三輪勇太郎氏がKグループの代表取締役社長に就任することが決定しました。三輪氏は、前代表の田邊寛之氏と北嶋久乃氏が築き上げた強固な基盤と企業文化を引き継ぎつつ、新たな成長を目指します。

三輪勇太郎氏は、三井物産で鉄鋼製品の輸出業務に従事した後、リヴァンプを経てファーストリテイリンググループのジーユーで社長補佐を務め、経営企画や収益改善プロジェクトを推進してきました。1989年生まれの東京都出身で、慶應義塾大学を卒業しています。

7月22日 トラディショナル型サーチファンドM-Capitalが事業承継 – 発泡スチロール製品製造

トラディショナル型サーチファンドであるM-Capital(代表:志村 光哉氏)は日経新聞の特集記事にて発泡スチロール製品製造会社である株式会社アイルの承継を行ったことを公表しました。記事によればLINEヤフーグループで幹部をつとめ、ベンチャーキャピタルのブーストキャピタルを立ち上げた小沢隆生氏や堀新一郎氏も個人で出資しているとのことです。

国内トラディショナル型サーチファンドはこれまでに4件組成され、そのうち本件を含めた2件で承継済み&経営中、残り2件が承継先探索中という状況です。

7月26日 JSFPが4件目の承継 – 玩具・ゲーム機器の輸出入及び卸売業

野村リサーチ・アンド・アドバイザリー株式会社(代表:茂木豊氏)と株式会社Japan Search Fund Accelerator(代表:嶋津紀子氏)は、共同で運営するジャパン・サーチファンド・プラットフォーム投資事業有限責任組合を通じて、エヌケー貿易株式会社(東京都台東区、代表:澤野七生氏)の株式を取得する契約を締結しました。

この株式取得は、事業承継投資の一環として、サーチャーである曽我祐馬氏が主導しています。エヌケー貿易株式会社は約20年間、ホビー・玩具業界で活躍し、玩具やゲーム機器の輸出入および卸売業を行っています。

11月27日 アクセラレータ型ファンドのM&A BASEの1号案件で、オムライス専門店運営のTGKを承継

M&A BASE株式会社が運営する「M&A BASEサーチファンド1号投資事業有限責任組合」は、サーチャー春山佳久氏による株式会社TGK(本社:東京都豊島区)の事業承継を実施しました。
今回の取引により、春山氏はTGKの代表取締役に就任し、現代表取締役の安藤隼人氏は取締役として引き続き経営に参画します。TGKは「神田たまごけん」「肉とたまご」の2ブランドでオムライス専門店を展開し、直営7店舗・FC4店舗を有し、バーチャルレストランなどを通じて全国的な知名度を確立しています。サーチャーの春山佳久氏はUCLA卒業後、電通、Google、Hulu Japan、Skyscanner、BAKE(COO就任・後ポラリスキャピタルに売却)を経て、旅行サービス企業創業・清算後、2023年よりサーチファンド活動を開始しました。

2024年に組成されたサーチファンド/アクセラレータファンド6件

1月10日 安宅 祐樹氏が国内4件目のトラディショナル型サーチファンド、事業承継支援機構を設立

安宅 祐樹氏が国内4件目となるトラディショナル型サーチファンドである、『事業承継支援機構合同会社』を立ち上げ、活動を開始しました。安宅氏は新卒で野村證券に就職された後、Babson CollegeでMBAを取得、その後BCGでコンサルティング業務に従事したのち、トラディショナル型サーチファンドを立ち上げられました。安宅氏は2026年1月までに国内の中小企業「1社」の譲受を

1月31日 株式会社ロケットスターがサーチファンド事業を始動

株式会社ロケットスター社が、「サーチファンド事業」の第一号案件として新川 佳奈氏とサーチャー契約を締結したことを発表しました。新川氏はアクセラレーター型とトラディショナル型を含むサーチファンドの中で国内初の女性サーチャーとなります。新川氏は共同創業者の安藤氏と共に、女性のキャリア支援事業を行う株式会社ROARS社を創業し、関連事業の事業承継を目指すことになります。

一見すると一般的なサーチファンドのスキームとは異なるように見受けられますが、記事中には”ロケットスターは、ROARSの顧問としてIT活用、マーケティング、営業、組織づくりなどのサポートを行うとともに、事業承継希望先の選定支援を行ってまいります。”とあることからロケットスター社はアクセラレーター的な立ち位置としてROARS社に関わっていくことが予想されます。

ROARS社としては既に女性のキャリア支援事業として事業を開始している為、サーチファンドではなく事業会社として、事業ドメインの拡充を目的としたロールアップを目指していくものと予想されます。

3月13日 百五銀行とFore Bridge(旧Growthix)が「105東海みらいサーチファンド」を設立、東海エリアでは初の試み

Fore Bridge株式会社(旧Growthix Investment株式会社)と株式会社百五銀行は、三重県と愛知県を中心に、中堅・中小企業の事業承継問題に取り組むための新しいサーチファンド「105東海みらいサーチファンド」を設立しました。この取り組みは、東海エリアで初めての試みであり、後継者が不在の問題を解決することを目的としているとのことです。

105東海みらいサーチファンドは、百五銀行からの出資を受け、Fore Bridge株式会社(旧Growthix Investment株式会社)がファンドの運用を行います。また、後継者と企業のマッチングや、事業承継に至るプロセスもサポートします。三重県では後継者不在の企業が比較的少ないものの、このサーチファンドを通じてさらに多くの事業承継の機会が生まれることが期待されています​。

「105東海みらいサーチファンド」 概要

  • ファンドの名称:105東海みらいサーチ1号投資事業有限責任組合 (通称:「105東海みらいサーチファンド」)
  • 設立:2024年3月13日
  • ファンド総額:501百万円
  • 存続期間:7年
  • 無限責任組合員:Fore Bridge株式会社(旧Growthix Investment株式会社)
  • 有限責任組合員:株式会社百五銀行
  • 投資対象:三重県・愛知県を中心とする百五銀行営業エリアにおいて事業承継ニーズのある地元中堅・中小企業

9月16日 日本5例目のトラディショナル型サーチファンド、ジャパン・リレー・パートナーズが始動

ジャパン・リレー・パートナーズ合同会社は、サーチャーの小林靖氏が、Inclusion JapanやJapan Private Equity、JaSFAなど17の個人投資家および機関投資家とのジョイントベンチャー契約を締結し、日本におけるサーチファンド活動のための資金調達を完了しました。

小林氏は、トヨタグループで10年間勤務し、ラテンアメリカ(キューバやエクアドルを含む)での機械の国際販売・マーケティングを担当していました。キューバでの3年間では、ハバナに新会社を設立し、CEOとして経営全般を指揮。この経験がきっかけで、起業家精神に目覚め、日本でのサーチファンドの分野に進出しました。

9月17日 日本6例目のトラディショナル型サーチファンド、田中事業承継合同会社が始動

田中事業承継合同会社(代表:田中清貴)は、事業承継企業を探すためのサーチ活動を開始し、そのための費用調達を目的とした合弁契約を締結したことを発表しました。同社は田中清貴氏が設立したトラディショナル型のサーチファンドで、16名/法人の投資家からの支援を受けています。短期間でのExitを目的とせず、オーナーの意思を継ぎながら、承継企業の長期的な成長を目指します。事業承継後は田中氏がその会社に移り住み、経営に注力します。

田中氏は早稲田大学卒業後、三井物産で化学品・食品分野の投資や経理業務に従事し、2024年にはオックスフォード大学でMBAを取得しました。

10月22日 日本M&Aセンターが地域特化型アクセラレータ型ファンド運営会社、「J-Search」を設立

株式会社日本M&Aセンターホールディングスは、地域金融機関と連携した地域特化型サーチファンドの管理運営会社、株式会社日本サーチファンド(以下「J-Search」)を設立しました。
J-Searchは地域金融機関との連携を通じて地方企業の後継者問題解決や成長支援、優秀な人材の地方での経営者輩出に取り組む考えとのことです。
今後、J-Searchは地域金融機関をLP(有限責任組合員)とした地域ごとの投資事業有限責任組合(LPS)を設立し、地方創生および中小企業の競争力強化を目指す方針です。

【J-Search概要】
会社名:株式会社日本サーチファンド
代表取締役:大槻 昌彦
所在地:東京都千代田区丸の内1-8-2 鉃鋼ビルディング24階
設立日:2024年10月
資本金:1億円
株主:日本M&Aセンターホールディングス100%