Stanford GSBが6月28日付で2年ぶりのサーチファンドレポートとなる2024 Search Fund Studyを公開しました。レポートはこちらのURLからどなたでも無料でDLできますので、原文が気になる方はぜひアクセスしてみてください。
この記事では2024 Search Fund Studyの概要を日本語でまとめることを目的としたページです。このレポートは北米(カナダ+アメリカ)におけるトラディショナル型サーチファンドを調査対象にしており、概況把握に最適なレポートですので、サーチファンドに興味のある方におすすめの内容となっています。

ファンドレイズとサーチに関する調査

年代別サーチファンドの活動状況

サーチファンドの設立数(Funds Raised)は年々上昇傾向にあり、2023年のサーチファンド設立数は90を超えています。一方で企業承継数(Aquisitions)は2021年から減少傾向にあり、北米におけるサーチ環境はサーチャーにとって容易ではないことが伺えます。

Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview

サーチファンド毎の状況

これまでに設立されたサーチファンドは681件、そのうちサーチ期間を終えたものは524件、更にそのうち企業承継を達成したものは328件と63%と承継を達成したサーチファンドの割合は2022年調査時はサーチファンド全体の66%であったのに対し、今回レポートでは63%に減少しています。これは前述の通り直近2年のサーチファンドの増加と承継件数の減少が原因と考えられます。

Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview

サーチャーのプロフィール

サーチャーの年齢の中央値は31歳と略横ばいですが、30歳以下の割合は24%から32%と増加しておりサーチャー全体で若年化の傾向があるようです。またMBA卒業直後にサーチファンドを立ち上げるケースも前回調査より29%から44%に増加しています。MBAでETA(Entreprenuership through Aquisition)の授業を受講したサーチャーの割合が48%と前回調査よりも10ポイント以上増加しており、この様なETA教育の広がりがPost MBAとしての選択肢として広がっている背景として考えられます。MBAを経ていないサーチャーも19%から24%と増加している点も特筆すべき点です。
女性のサーチャーは全体の17%と増加傾向ではありますが、依然として男性が多数を占める状況です。人種別の割合もまとめられており、白人が56%、アジア系が16%、アフリカ系が6%、ラテン系が8%となっています。

その他データ

直近調査ではシングルサーチャーは81%、パートナー型は19%となっています。サーチキャピタルの金額は中央値が55万ドル(約8,200万円)、最低値が27万ドル(約4,000万円)、最大値が約100万ドル(約1億円)とサーチャーによる幅があることが伺えます。
トラディショナル型サーチファンドは複数の投資家から投資を募りますが、直近調査における投資家の数は中央値が12となっており、過去と比較すると投資家の数は若干の減少傾向にあります。これは北米ではFund of Searchfundsと呼ばれる機関投資家が多く存在し、一口あたりの投資金額が大きくなっていることが影響しているのではないかと考えられます。
サーチャーが投資家を募る期間もサーチファンド毎に大きく異なります。中央値は3ヶ月ですが、最も長井期間は18ヶ月、最短ではなんと0ヶ月(数日)でファンドレイズを完了するサーチャーもいるようです。

企業の承継に関する調査

承継先企業の業態

サービス系、Tech系の業態が依然人気で、徐々に増えているのはヘルスケア系の業態です。一方でソフトウェア系の業態はマーケット状況やPEとの取得競争が激化している背景などから前回調査よりも大きく減少しています。

Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview

承継先企業の統計データ

譲渡価額の中央値は1,440万ドル(約21.6億円)に対し、EBITDAの中央値は220万ドル(約3.3億円)となっており、譲渡価額/EBITDA は7.0xと日本市場と比較すると高めのレンジになっています。譲渡時のEBITDA margin中央値は26.9%、EBITDA成長率中央値は25%と、高い成長率を持つ高収益性企業を高いMultipleで承継するというのが北米におけるスタンダードになっているようです。
承継後1年目のCEO(サーチャー)の報酬の中央値は20万ドル(約3,000万円)と他のPost MBAキャリアと比較しても遜色ない数字となっています。

Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview

売主のデータ

売主の年齢中央値は55歳。承継後の引き継ぎ期間は前回調査では4ヶ月だったのに対し、直近では6ヶ月に伸びているとのことです。90%以上のサーチャーが承継後も売主と良好な関係を維持しており、12%が売主を会社に留めておくことを考えているようです。

Exitとリターンに関する調査

これまでの北米トラディショナル型サーチファンドの累計IRRは35.1%、ROIは4.5xとなっています。OverallのROIは年々減少傾向にありますがこれは一部の超ホームラン案件(asurion等)によるところが大きく、上位3社を除くとROIは3倍強のレンジで安定して推移しています。

Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview
Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview

本レポートでは下図のようにサーチファンドのパフォーマンスを樹形図で整理しています。サーチ段階で約1/3のサーチファンドが承継できず、承継に成功したサーチファンドも1/3が損失を出しています(更にその1/3が株式を全損しています)。PE投資の目線で考えると損失を出している割合はかなり高い印象ですが、一方でROIで5x以上のリターンを出す優良案件も承継案件全体の25%存在(Gain69%のうち36%)するため、これらの承継案件が全体のパフォーマンスを牽引している印象です。

Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview

パートナー型のパフォーマンスについて

直近調査ではパートナー型の割合は19%に減少していますが、パートナー型による累計IRRは40.5%、シングルサーチャーによる累計IRRは30.3%とこれまでのパフォーマンスは明確にパートナー方に軍配が上がるようです。一方でレポートでは5x以上のリターンを達成したシングルサーチャーの割合は増加しており、直近2年で10x以上のリターンを達成した6つのサーチファンドのうち5つはシングルサーチャーによるものであるため、今後もパートナー型が成績優位な傾向が続かない可能性も示唆されていました。

Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview

サーチャーの報酬(エクイティ+給与)について

エクイティによる報酬(ストックオプション)

トラディショナル型サーチファンドにおけるサーチャーはマイルストーン達成に応じたストックオプション(SO)を得る報酬設計になっていますが、直近調査では経営中のサーチャー1人が得られる見込みのSOの平均値は609万ドル(約9.1億円)、中央値は198万ドル(約3億円)となっています。Exitしたサーチャー1人が得たSOの平均値は570万ドル(約8.6億円)、中央値は225万ドル(約3.4億円)となっています。

Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview

給与による報酬

サーチ期間中の給与の中央値は13.9万ドル(約21百万円)で、インフレ等を背景に前回調査時の12万ドル(約18百万円)から増加傾向にあります。
承継後1年目のCEO給与の中央値は19万ドル(約29百万円)+ターゲットボーナス2.5万ドル(約4百万円)となっています。

Stanford GSB, Search Fund Study 2024 – Research Overview

まとめ

・北米におけるサーチファンドエコシステムは拡大中なるも、サーチャーにとっては厳しい承継環境
・MBAを中心にETAの授業が活発化し、Post MBAキャリアとしてサーチファンドを選択する割合が増加
・承継先はサービス系、Tech系が人気な一方、ソフトウェア系は大きく減少
・高い成長率を持つ高収益企業をhigh valuationで承継するというのが北米におけるスタンダードになっている
・北米トラディショナル型サーチファンドの累計IRRは35.1%、ROIは4.5xと依然高い水準のリターンを維持
・承継案件のうち1/3が損失を出すというPE投資としては高い割合で損失を出しているが、ROIが5x以上の案件も多くこれらのパフォーマンスによって全体で高いリターンを維持している
・パートナー型の成績がシングルサーチャーよりも優位だが、近年はシングルサーチャーが改善傾向にある
・サーチャーのSO期待値は魅力的な水準且つ給与報酬も高い水準を維持