スペインのMBAであるIESE Business Schoolが9月18日付で2年ぶりのサーチファンドレポートとなるInternational Search Funds – 2024 Selected observationsを公開しました。レポートはこちらのURLからどなたでも無料でDLできますので、原文が気になる方はぜひアクセスしてみてください。
この記事ではInternational Search Funds – 2024 Selected observationsの概要を日本語でまとめることを目的としたページです。このレポートは北米(カナダ+アメリカ)以外の地域(グローバル)におけるトラディショナル型サーチファンドを調査対象にしており、概況把握に最適なレポートですので、サーチファンドに興味のある方におすすめの内容となっています。
グローバルサーチファンドの活動状況
年代別サーチファンドの活動状況
グローバルサーチファンドの設立数(Funds Raised)は年々上昇傾向にあり、2023年の設立数は59件を記録しています。企業承継数(Aquisitions)も同様に増加傾向にあり、グローバルでもサーチファンド設立と事業承継が増加していることが伺えます。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
サーチファンド毎の状況
これまでに設立されたグローバルサーチファンドは320件、そのうちサーチ期間を終えたものは184件、更にそのうち企業承継を達成したものは146件と79%ものサーチファンドが承継を達成しており、これは北米の63%を大きく上回る数字です。北米と比較すると1カ国当たりのサーチファンドも少ないか又は黎明期であることから、サーチャー同士の競争が発生しにくい環境であることに加え、投資家も新たな国のサーチファンドへの投資に於いては承継先が見つかる蓋然性を慎重に見極める傾向にあることから北米と比較して高い承継率を記録したものと考えられます。グローバルサーチファンドは2010年代後半以降で大きく増加したことから、exit実績は21件と極めて限定的な数字に留まっています。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
サーチファンドの設立地域
グローバルサーチファンドは現在40の国と地域でファンドレイズの実績があり、直近2年間では中国、ニュージーランド、ベトナム、南アフリカ、アイルランド、オランダで各国最初のサーチファンドが立ち上がっています。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
サーチャーのプロフィール
サーチャーの年齢の中央値は33歳と2年前の調査と比較すると若干の上昇傾向ですが、これは30歳以下のサーチャーが減少し、40歳以上のサーチャーが増加したためと考えられます。またMBA卒業直後にサーチファンドを立ち上げるケースも前回調査の44%から23%に大きく減少しており、他のキャリアを経由してサーチファンドに挑戦している層が増加しています。また、MBAを経由せずにサーチファンドを立ち上げているサーチャーの割合は全体の40%と調査開始以来最大の割合を占めています。
女性のサーチャーは全体の7%と、1桁%台の極めて少ない状況が過去から継続しています。
その他ファンドに関わるデータ
直近調査ではシングルサーチャーは65%、パートナー型は35%となっています。サーチキャピタルの金額は中央値が46万ドル(約6,840万円)、最低値が15万ドル(約2,250万円)、最大値が約83万ドル(約1億2,500万円)とサーチャーによる幅があることが伺えます。(なお、驚くべきことに83万ドルのファンドレイズを行ったのはパートナー型ではなくシングルサーチャーとのことです)
また、上記レイズ額の内中南米のサーチャーの年間給与は中央値が9万4千ドル(約1,400万円)、欧州のサーチャーの年間給与は中央値が9万ドル(約1,350万円)となっています。
トラディショナル型サーチファンドは複数の投資家から投資を募りますが、直近調査における投資家の数は中央値が16となっており、過去からほぼ横ばいとなっています。
サーチャーが投資家を募る期間もサーチファンド毎に大きく異なります。中央値は5ヶ月ですが、最も長い期間は17ヶ月、最短では1ヶ月でファンドレイズを完了するサーチャーもいるようです。
サーチ対象の業種に関する調査
前回調査に続き、80%のサーチャーがTech系の業種をターゲットにしており、主な内訳としては、Tech系サービス事業、ソフトウェア産業、教育産業が上位を占めています。製造業に続いて3番目に人気なヘルスケア産業では、事業者向けサービスが最もフォーカスされている分野となるようです。Tech系事業は設備を持たないことからCapexが低く抑えられ、サービス事業はリカーリング(継続収入)性が高いことが人気の背景と考えられます。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
サーチ方法に関する調査
64%がオーナーへの直接アプローチや知人や投資家経由など、独自のアプローチを用いたサーチを主に行っているのに対し、37%はブローカーや銀行紹介などによるソーシングを行っているようです。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
企業の承継に関する調査
承継済サーチファンドの地域
2023年末までに北米以外の地域では146件のサーチファンドによる承継が行われています。86件が欧州、54件が中南米、4件がアジア太平洋地域、中東とアフリカで1件ずつと地域的には欧州と中南米に偏っている状況です。今回調査では新たにニュージーランド、ロシア、パラグアイでの承継実績が追加されています。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
承継先企業の業態
Tech系業態が依然人気で、サービス系が一気に実績を増やしている他、製造業が徐々に増えている状況です。Tech系20件の中ではソフトウェア開発事業が9件と最も多く、人を増やすことで売上増加が見込める開発系の業態が人気であることがうかがえます。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
承継先企業の統計データ
譲渡価額の中央値は1,510万ドル(約22.7億円)に対し、EBITDAの中央値は240万ドル(約3.6億円)となっており、譲渡価額/EBITDA の中央値は5.7xと日本市場よりも若干高いが大きな乖離はない水準となっています。譲渡時のEBITDA margin中央値は33%、EBITDA成長率中央値は15%と、成長中の高収益性企業をMarket Multipleで承継するというのがグローバルサーチファンドのスタンダードになっているようです。承継先の従業員数中央値はは39名と2016-17年調査以降減少傾向にありますが、なんと従業員1,200人の企業の承継例もあるようです。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
ディールが成立しなかったケースに関する調査
Due Diligence中に問題が見つかったケースが68%と最も多く、次いで価格が折り合わなかったケース、売主がディールから撤退したケースが続きます。また、直近調査では最初の1年間でLOIの締結に至らなかったサーチファンドのうち約40%が最終的に承継を達成できずにファンドクローズしているデータがあるようようです。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
Exitとリターンに関する調査
これまでのグローバルトラディショナル型サーチファンドの累計IRRは18.1%、ROIは2.0xとなっており、IRRは前回調査に続き20%を下回る状況です。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
本レポートでは下図のようにサーチファンドのパフォーマンスを樹形図で整理しています。サーチ段階で約3割のサーチファンドが承継できず、承継に成功したサーチファンドの1/4が損失を出しています(更にその2割弱が株式を全損しています)。
北米実績(累計IRR35.1%、ROI4.5x)と比較してグローバルの実績(累計IRR18.1%、ROI2.0x)が劣る背景として、損失を出した案件の割合はグローバルの方が少ないものの、ROIで5x以上のリターンを出した優良案件の割合は北米が承継案件全体の25%に対し、グローバルは6%しかなく、この実績の差異が全体のパフォーマンスの差に影響している印象です。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
パートナー型のパフォーマンスについて
グローバルのサーチファンドに於いては、リターンに於いてシングルサーチャー(N=53)とパートナー型(N=40)に有意な差は現れませんでした。
IESE Business School, International Search Funds – 2024 Selected observations
まとめ
・グローバルでサーチファンドエコシステムは拡大中、承継は北米と比較して行いやすい状況
・現在40の国と地域でサーチファンドが組成、欧州と中南米に集中もアジア含む他地域へ拡大中
・グローバルではMBA直後のサーチ起業の割合は少なく、他のキャリアを経由するケースが多い傾向
・直近2年に組成されたグローバルサーチファンドのサーチャーのうちの40%はMBAを経ていない
・承継ターゲットはCapexの低さとリカーリング性の高さからTech系サービス事業が人気
・実際の承継もTech系が多いが、人の増加で売上増加が見込めるシステム開発系が中心
・成長中の高収益性企業をMarket Multipleで承継するというのがグローバルサーチファンドのスタンダード
・最初の1年間でLOIの締結に至らなかったサーチファンドのうち約40%が最終的に承継を達成できずにファンドクローズしているデータあり
・グローバルのトラディショナル型サーチファンドの累計IRRは18.1%、ROIは2.0xと北米対比でパフォーマンス悪く、これはROIで5x以上のリターンを出した優良案件の割合が低いことが理由